アネモネと聞くと、頭に蘇る歌があります。小学生のころに習った「湖の春」です。子供が歌うには少し大人っぽい歌詞だったことが印象に残っていて、成人してから、コーラスの練習で再会した曲です。
子供のころはアネモネの花が思い浮かびませんでしたが、大人になってあらためて聴くと、アネモネのはかない美しさを歌った名曲だなと思います。
「湖の春」 作詞 野上 彰 作曲 畑中 良輔
みずうみの岸辺に 咲きそめた花よ 色深いアネモネ 七色の花よ
過ぎゆく春の 静かな歩み ひわの声も つややかに
しっとりとしたイメージの「湖の春」に歌われた色深いアネモネ。どんな花言葉を持つ花でしょう。
アネモネの名前
- 学名:Anemone coronaria/英語 アネモネAnemone
- 別名:ウィンドフラワー Wind Flower
- 和名:牡丹一華ボタンイチゲ・紅花翁草ベニハナオキナグサ
アネモネ Anemone 分類と特徴
- 分類:キンポウゲ科 イチリンソウ属 多年草・球根植物
- 学名:Anemone Coronaria
Anemoneはギリシャ語の「風」を意味するAnemosが語源とされ、アネモネは、風の吹くときにしか咲かないという古い言い伝えがあります。
Coronariaは「花冠のような」と言う意味で、紀元前3~4世紀のギリシャで野生のアネモネで頭につける冠を作っていたとの記録がありますアネモネは最も古くから人との深いつながりのある花です。
- 別名:Wind Flower 春風の吹く頃に咲く花と言う意味があります。
- 和名:牡丹一華 ボタンイチゲ/紅花翁草 ベニハナオキナグサ
- 原産地:地中海沿岸地方 凡そ400年前英国・ヨーロッパを中心に園芸植物として品種改良されたものが明治初期に渡来する。
- 開花時期:3~5月
- 生育地域:園芸品種は日当たりが良く風通しが良い場所で良く育ち、比較的育てやすい品種です。
- 花の形:花の形は一重咲き・八重咲・細かい八重咲・吹き詰め咲に加え、大輪・小花など種類が豊富。花弁とみられる部分は萼片。
- 花の色:桃色・青色・赤色・白色・紫色それぞれの濃淡。現在、日本では100種類以上あると言われています。
- 草丈:主に切り花用に育てられる高性の花と、矮性の花がある。
- 毒性:植物全体にプロトアネモニンと言う有毒成分があり、茎から出る汁液は皮膚炎・水泡・化膿を引き起こすこともあり注意が必要です。
アネモネとアドニス Anemone&Adonis
ギリシャ神話の中で美少年アドニスが流した血からアネモネが生まれたとする伝説があり、まれにアネモネの事をアドニスと呼ぶ地域があります。
植物学の分類で言うとアドニス(Adonis)は同じキンポウゲ科のフクジュソウ属の学名です。美少年アドニスが流した血から生まれた花なんて、なんて神秘的!
アネモネの由来となったギリシャ神話を少しひも解いてみたくなりませんか。アネモネの花言葉をより深く知ることができるかもしれません。
アネモネとギリシャ神話
アネモネは古代ギリシャでは野に咲くその赤い花が印象的だったのか、いくつかの神話に書き残されています。中でも有名な神話が「アドニスとアフロディテの悲劇」です。
神話はアドニスの母親のミュルラの悲劇から始まります。
キプロス王キニラとミュルラの悲劇
キプロス王の娘ミュルラは大変美しいことで評判でした。
「キプロス王の娘ミュルラは女神アフロディテよりも美しい」と言う噂を聞いた、アフロディテは激怒し、その矢で傷つけられると最初に見たものに恋をしてしまうという、エロースの矢でミュルラを傷つけ父であるキプロス王を愛するように仕向けたのです。
父王への不道徳の恋に思い悩むミュルラを哀れに思ったミュルラの乳母の引き合わせで、娘とわからないように暗闇の中で姿を偽り父王と愛し合う事に、しかし事実を知った父王は激怒しミュルラを剣にかけようとします。
命からがら城を逃げ出したミュルラは遠くアラビアの地までに彷徨い続けました。自身の身の上を嘆き悲しみ憔悴しきったミュルラは神に「この罪人から生をも死をも取り上げてください」と願います。
ミュルラを哀れに思った神々がミュルラを没薬の木(モツヤクノキ)に変えました。その没薬の木から生まれたのがアドニスなのです。
アドニスとアフロディテの悲劇
母の無いアドニスを不憫に思ったのか、責任を感じたのか。アフロディテはアドニスを育てることにしました。
養育は冥界の王妃ペルセフォネに任せましたが、美しい少年に育ったアドニスを愛してしまったペルセフォネはアドニスをアフロディテに返すのを拒みます。
アドニスを取り合い争うアフロディテとペルセフォネの仲裁に入ったゼウスが「一年の内3分の1はアフロディテと過ごし、3分の1はペルセフォネと過ごし、残り3分の1はアドニスが好きなところで過ごすように」と決めました。
争いはそれで収まったかのように思われましたが、好きなところで過ごすように決められた3分の1もアドニスが親と慕う、アフロディテと過ごすのを選んだため、ペルセフォネは激しい嫉妬にさいなまれます。
思い余ったペルセフォネがアフロディテの恋人の軍神アレスにアフロディテが人間の少年に夢中だと伝えてしまいます。腹を立てたアレスが猪に化身して、狩りをしていたアドニスをその牙にかけて殺害してしまったのです。
愛するアドニスの死を嘆き悲しんだアフロディテの瞳から流れ落ちた涙はバラの花に、アドニスの体から流れる血はアネモネの花になりました。多年草であるアネモネは春に咲き夏に枯れ、また翌年の春には新しい花を咲かせます。
それはアドニスを愛したアフロディテが亡くなったアドニスから生まれたアネモネの花が春だけは自分の元へ戻ってくるようにして欲しいとゼウスに願ったからとも伝えられております。
ギリシャ神話を読むなら
ギリシャ神話は吟遊詩人が口承で伝えた物語であるため伝えられた地域ごとに食い違いや差異があります。ご紹介した神話もその一つであり、アネモネの花の誕生の神話は他にもあります。
アドニスとアフロディテの悲劇を知って、ギリシャ神話を読んでみたくなった方へ私のおすすめは、
- 翻訳家で作家の石井桃子先生の翻訳「ギリシャ神話」(のら書店)
- 漫画家の里中満智子先生が描かれた「マンガ・ギリシャ神話」(中公文庫刊)
です。
アネモネの花言葉
ギリシャ神話の悲劇から生まれた花アネモネ、その花言葉も悲しみに溢れているのでしょうか。
アネモネ誕生のギリシャ神話は悲劇だけを描いているだけではなく、植物が毎年枯れまた春に蘇るという命のサイクルを例えており、はかない美と命の永遠性そして復活を象徴する花であることが古くからアネモネが愛され続けている理由でもあるのです。
私たち人間とつながりの深いアネモネ、その花言葉をご紹介しましょう。
アネモネの花言葉(すべての色に通じる花言葉)
- 「はかない夢」
- 「はかない恋」
- 「恋の苦しみ」
- 「真実」
- 「希望」
- 「期待」
アネモネの花は春の風が吹くと咲いて、もう一度風が吹くと散ってしまうと言う伝説があり、「はかない花」の象徴であったことがうかがえる花言葉ですね。(現在、品種改良が進んだ園芸種のアネモネは長い期間楽しめます。)
その反面、枯れても、また次の春には同じ場所に花を咲かせることから「希望」「期待」そして必ず戻るという「真実」と言う花言葉が生まれたのでしょう。
アネモネの花言葉(花色別の花言葉)
赤色(Red・Scarlet)のアネモネの花言葉
「君を愛す」
白色(White)のアネモネの花言葉
- 「真実」
- 「期待」
- 「希望」
- 「真心」
紫色(Purple・Lavender)のアネモネの花言葉
- 「あなたを信じて待つ」
- 「悲しみ」
桃色(Pink)のアネモネの花言葉
「待ち望む」
青色(Blue・Dark blue)のアネモネの花言葉
「堅い誓い」
ギリシャ神話に悲恋からくるのか、そのはかない姿に恋心のはかなさを重ね合わせたのでしょうか?恋愛に通ずる花言葉が多いアネモネの花言葉。
そんなアネモネの花束をプレゼントされたらどんなにうれしいでしょうか。
アネモネ 代表的な品種
セント・ブリジット “St.Brigid”
- 大輪の八重咲
- 花の色/ホワイト・バイオレット・ピンク・スカーレット・ローズ
モナ・リサ “Mona Lisa”
- 一重
- 草丈が高く切り花向き
- 花の色/薄紫・ラベンダー・ブルーシェード(ごく薄い紫)
デ・カーン“De Caen”
- 一重・半八重
- 花の色/ホワイト・スカーレット・パープル・バイカラー(白に赤)
アネモネと言ったら、このダ・カーンを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
アネモネの花言葉まとめ
アネモネは古代から愛される花、その誕生はギリシャ神話に由来すると言われている。その花言葉もギリシャ神話を彷彿させるものが多い。
アネモネのすべての花色に通じる花言葉は
- 「はかない夢」
- 「はかない恋」
- 「恋の苦しみ」
- 「真実」
- 「希望」
- 「期待」
花色別の花言葉は
- 赤色(Red・Scarlet)・・・「君を愛す」
- 白色(White)・・・「真実」「期待」「希望」「真心」
- 紫色(Purple・Lavender)・・・「あなたを信じて待つ」「悲しみ」
- 桃色(Pink)・・・「待ち望む」
- 青色(Blue・Dark blue)・・・「堅い誓い」
古代から人に愛されてきたアネモネ、最近では冬の終わり頃から初夏まで花屋さんの店先を鮮やかな色で飾っています。卒業の季節に咲くアネモネ、せつない思いを花に託してアネモネのアレンジメントはいかがでしょうか。
鉢植えでも簡単に育てられるので今年はアネモネの鉢植えに挑戦するのも素敵ですね。